木村義男さんの荷駄隊列
さき馬(1)は牡、てもと馬(2)・なか馬(3)・すてさき馬(4)・すて馬(5)は妊娠した牝、最後尾は今年生ま れた仔馬
前回掲載したように、北海道和種馬(今回掲載分は通称名のドサンコと呼ぶ)の特性の一つに、ダンヅケと言われる「駄載運搬方法」がある。
平成5年10月16日に北海道和種馬保存会道南支部が、ドサンコの持久力調査として「駄載テスト」を行い、その調査実施をされた「北海道和種馬駄載運搬調査実施委員長・長田光弘氏」の報告を紹介する。
「道南地方では個々の馬の単独の駄載運搬ではなく、昔ながらの馬を連ねての駄載運搬にて調査実施した。そもそもドサンコの体型は、いわゆる前かちであってこのことは駄載に好都合とされているとある。」
(前かちとは前肢骨が強靭であることを表現しているものと思われる。)
日本在来馬の骨格について、植月学著「出土馬遺体研究の現状」を引用する
「鎌倉市由比ヶ浜南遺跡では中世武士の馬について興味深い分析結果が得られている。鵜澤・本郷(2006)によれば本遺跡の1,110遺構に埋葬された馬の四肢骨プロポーションは、現生在来馬とは異なり前腕の骨が長い傾向にあった。
これはより速く走るのに適した体型であり、主に山間部や狭く急峻な地形で生き残ってきた現生在来馬とは異なった特徴の馬がかつては存在した可能性が論じられた。
鵜澤らが示した由比ヶ浜南遺跡のその他の馬の平均も、木曽馬の四肢骨のプロポーションとはかなり異なる。
筆者が最近調査したモンゴル帝国時代の馬には、木曽馬と由比ヶ浜のそれぞれに類似したプロポーションを持つ個体が存在した。(図1)
前者は橈骨・中手骨・中足骨など四肢骨の遠位部の骨が相対的に短い。木曽馬との類似性からは、傾斜地での歩行に適していたと推測される。
後者はアラブ馬とも近く、走行適応型との想定に合致する。
(図1)
日本在来馬のルーツとされる蒙古馬の例から、中世の日本においても多様なプロポーションの馬がいたと予想される。山国・甲斐の武田氏館跡に丁寧に埋葬されていた軍馬と目される個体は、復元体高が約126㎝と小形であった。(妹尾・鈴木2000) (図1)に示したプロポーションは、先のどちらとも異なるが、特に末端の中手・中足骨が短く、由比ヶ浜の1,110遺構とは逆の傾向にあるのは興味深い。走行よりも山越えの遠征に力を発揮して武田の軍事力の源泉となっていたのかもしれない。ただ、中世馬のプロポーションの詳細な研究はまだ少なく、今後の研究に俟つ部分が大きい。」とある。
話をダンヅケに戻そう
「今回のダンヅケは当地域の超一流と言われる、木村義男氏・土谷進氏にお願いし、また貴重な意見によって5頭一組の駄載隊列を二組作って実施した。各組隊列のさき馬に乗る御者はハミのような物は用いず、しかも一本手綱である。
棒締頭絡(ウムイ・ウルグイとも呼ばれる)
駄載重を馬体重の三分の一とした理由は、戦時中から軍陣獣医学の分野で適用されていたものを採用して無理のかからないものとし、距離は10㎞とした。
(図2)
ダンヅケの場合の不可欠な要点として挙げられるのは、各馬の荷駄作業であって短時間にしかも荷崩れのしないやり方が要求されるが、お二人の行動力と距離を充分考慮に入れて平均的に隊列を進めて行く熟達ぶりは、馬自体の持久力もさることながら御者たちの優れた経験的熟練を無視することは出来ない。
荷駄作業の様子
馬の歩様は終始側対歩であった。(左右の揺れが、斜対歩に比べ少ないためr荷崩れがしにくい)
今回の調査は馬体重・駄載重の測定から、2.5㎞ごとの所要時間の調査・馬の事前事後の検診等々きわめて多忙であったが、地元保存協会支部の会員達が多数参集して盛大に実施出来た。その会員達の熱意からみても、今後ダンヅケ等に関する後継者問題は案外期待出来る様にも思われる。」と結んでおられる。
(図2)から、5頭の馬で木村義男氏は総重量543㎏・土谷進氏は625㎏を一度に運搬したことがわかるが、昨年取材で北海道行ったとき「昔の言い伝えでは1頭に5俵(300㎏)を背負わして10㎞運んだこともあった」と聞いた事を思い出した。現在なら動物虐待で訴えられかねない。
飼養家の高齢化に伴いダンヅケの文化が廃れないよう、3年前に若い飼養家が同じようなテストを行ったとの情報も得ている。19年前の方々の意志が受け継がれていたのだ。
ダンヅケの技術を使い「災害救助馬」の育成を考えたが、馬は蹄が命であるため瓦礫が散乱している場所には残念ながら進入することは出来ないし、移動に経費が掛かる・病原菌の心配があり自由に移動させられない等々安直には発言出来ない。
引用 ドサンコの駄載力テスト 長内光弘 ホースメイトvol.11
出土馬遺体研究の現状 植月 学氏 BIOSTORY vol.21
新アルトメイトブック馬
「日本人と馬」 知識は馬に乗って
※1: 私の友人の牧場「石垣島馬広場」のHPもご覧下さい。
※2: 「かよちゃんを救う会」の募金が、277,108,700円集まりました。有り難うございました。
(平成27年7月2日現在)
鈴木純夫